top of page

忘れられた街 ブローレット

 俺たちトールズ士官学院《特科クラス》Ⅶ組が、先日《帝国解放戦線》によるガレリア要塞の襲撃事件、並びに同組織によってクロスベル自治州で開かれていた《ゼムリア通商会議》への『列車砲』の起動騒動の騒動に巻き込まれてから一週間が経過した。
 帝国にとってある種の『力』を見せつける象徴である『列車砲』を空砲とはいえ起動させられたことや、その守りの最たる要であるガレリア要塞をテロの標的とされたこと。そして俺達がその場に居合わせて主砲の起動を止めることが出来たとはいえ、ただの『学生』である俺たちにとってその一連の事件はあまりにも衝撃が大きかった。
 学院側はⅦ組に《特別実習》を続けさせるか否かを理事会に一任することとなった。理事会にはアリサの母でラインフォルトグループ会長イリーナ・ラインフォルト女史、ユーシスの兄でアルバレア公爵家の次期当主と言われるルーファス・アルバレア卿。そしてマキアスの父上で帝都ヘイムダル都知事のカール・レーグニッツ氏。そして俺たちⅦ組の創設者でもあり、帝国の第一皇子であらせられるオリヴァルト・ライゼ・アルノール殿下。そこにヴァンタイク学院長を加えた五名によって会議が開かれることになっている。
 俺たちは自分たちが成長する糧となった《特別実習》を続けて欲しいと言うことも行動することも何もすることが出来ず、ただただその日を待ちながら士官学院での通常のカリキュラムをこなしているしかなかった。

「正直なところ、どうなるかわからないわね」
「あぁ。僕達が特別実習をやりたいと思っていても、学院側がそれを許可しなければ出来ないからな」
「はい……。正直に言うと、帝都や今回の一件は今までと違ってあまりにも重い事件でしたから」
 委員長の言葉に皆が黙る。
「そうだな。夏至祭の時の事件も、ガレリア要塞での事件も俺達はたまたまそこにいた。サラ教官や学院側はあんな事件が起こるだなんて思ってもいなかっただろう。それに俺たちだけで解決出来た訳ではない」
「うん。夏至祭の時はクレア大尉たち鉄道憲兵達の人達がいてくれたからだったし、この間のガレリア要塞の時だって父さん達が暴走したアハツェンを引き受けてくれたから僕達は列車砲を止めることに専念出来たんだもんね」
「そう。それにサラやナイトハルト教官も協力してくれたからなんとかなったってのも大きいかも。わたしたちだけじゃ多分負けてた……」
 ガイウス、エリオット、フィーの言葉に俺も含めてあの時を思い出す。
「確かに。ノルドの時もゼクス中将達が許可をくれたから動けた。夏至祭もこの間の事件もそうだ」
 そう。自分達だけで解決したわけじゃない。
「悔しいが、それは事実だ」
「思えば……、最初の実習から助けられてばかりだな。我等は」
 ユーシスもラウラも少し悔しそうな声で言い視線を逸らす。
「ノルドもだけど、レグラムもガレリアもみんなでチカラを合わせたからこそだとボクは思うんだけどなー」
 ミリアムの言葉に皆が彼女を見る。ミリアムは「だってそうでしょ?」と続ける。自分だけではどうにもならないこことも、Ⅶ組の仲間や大人達の援護もあって解決することが出来た。解決することが出来たのは事実だ。
「ま、お前等がどう思おうがお前等が関わったことで解決出来たっていうことは忘れんなよ?一人じゃ突っ走っても止めてくれる奴も援護してくれる奴もいないが、お前等には仲間がいる。チームワークがあってこそのこの成果だと思えれば今は上出来なんじゃねぇの?」
 クロウがミリアムの頭をぽんぽんと叩きながらリィン達を諭すようにどこか忠告をするかのように言ったことで教室内は少し微妙な空気が流れた。だがミリアムがクロウに「なんでたたくのさー!」と反撃をしたことでその真面目なムードはどこかへ行ってしまったのだった。
「(クロウの今の言葉は事実だ。それまでがどうであれ解決出来たのは事実なんだ。それは忘れてはいけない……)」

 明日、その実習をどうするかを決める会議が開かれる。
 俺たちの特別実習がどうなるのか、またはもっと根本的な話、つまりはⅦ組が今後どうなるのか。そこで決まるのだ。
 気もそぞろな状態のⅦ組のメンバーたちをサラ教官はやれやれといった表情で見つめていた。
「(あの子達に、この国の情勢を見せるのにも、もちろん特訓としてもとてもいい体験だったのに。……本当に、どうなるのかしら)」
    まだそれは担任である自分にもわからない。どちらにしても、彼らが学院から卒業するまでの間にこの実習をやって良かったと思って欲しい。自分とは違って家族や仲間、環境と恵まれている彼等には尚更。



    ーーー翌日ーーー

 会議を終えた理事達を見送った俺達が教室へ戻るとサラ教官が腕を組んで待ち構えていた。
「はいはい、君達が好きな《特別実習》を続投することが決まったからといって浮かれている場合じゃないのよ?実は、とある提案と要請を受けてね。いつもの実習の前に君たちには『とある実習』に取り組んでもらうわ」
「とある実習……ですか?」
 委員長の言葉に首をかしげる。それは《特別実習》と同じものなのではないのだろうか?皆もなんだろうと顔を見合わせる。サラ教官はふふ~んと俺達の顔を見回して教室のドアの方を見やった。
「サラ?外に誰かいるの?」
「えぇ、そのとある実習に関わっている人物に入ってもらうわ。そして、君たちと一緒に行動してもらうことにもなるんだけどね。入ってちょうだい~」
 開けられたドアからは長い茶髪を揺らしつつ緑の制服を着た背の低い女子生徒が入ってきた。
「ト、トワ会長!?」
「トワ!?」
 そう。サラ教官の横に立ってにこにことⅦ組に入ってきたのは、二年生でクロウと同級生でありそしてこのトールズ士官学院生徒会の生徒会長を務めるトワ・ハーシェルだったのだ。
「えへへっ。Ⅶ組のみんな、今回はよろしくお願いします!」
「さて、今回の『実習』の話をするわよ。まずアンタ達は明日の正午にグラウンドへ集合すること。そこで実習地での班分けを発表するわ。そこからはその班単位で動いてちょうだい。今回はトワが来てるからわかると思うけど、かなり変則的で人数も多いからあたしもフォローに回りきれる保証はないわ」
 サラ教官の話の途中でマキアスが「教官」と手を挙げる。
「なに?マキアス」
「あの、変則的っていうのは……。それに実習は実技テストの後に……」
「実技試験はこの実習が終わった後。その時には今月末の君たち『本来の』特別実習の課題を発表するわ」
 サラ教官の言葉に俺達は一瞬動きを止めた。
 「この実習は、特別実習ではない?」この実習の後に本来の特別実習がある?じゃあトワ会長は今回だけってことなのか?
 結局マキアスやアリサ、ユーシス達が質問をぶつけてもサラ教官はそれ以上は答えてくれず、HRは終わりとなり俺達は第3学生寮へと戻ることになった。
 寮に戻るとシャロンさんに迎えられた俺達は、すぐ実習に行けるように準備を整えておくようにと言われた。明日の午後はその準備期間としてあてられている様で、翌日つまりは明後日の朝には出発することになっているのだそうだ。
 夕食の時になんとか少しでも聞き出そうとするがシャロンさんへの質問は躱され続け、サラ教官にははぐらかされ続けてしぶしぶ俺達は部屋へ戻ることとなったのだった。

 夜だというのにサラ教官が出かけた後、リィンの部屋にはエリオット、ガイウス、マキアス、ユーシスそしてクロウの6人が集まっていた。勿論、今日唐突に言われた『実習』についでである。
「一体、何をするんだろう……。今までこんなこと無かったよね」
「今回は特別だと言っていたな。いつもとは違う実習のようだが……」
 それ以上はさっぱりだとエリオットとガイウスは首を振る。それはユーシスもマキアスもクロウもリィンも同じだ。
「それよりも気になるのは、どうして今回の実習にトワ会長が付いてくるんだろう?」
 リィンはトワと同級生でありかつてリィン達の前にサラ教官と共に『特別実習』の前段階をしていたというクロウを「何か知っているか?」と期待を籠めて見た……のだが、クロウにもさっぱりだと首を振られてしまい結局は振り出しに戻ってしまった。
   同じ頃第三学生料の3階でもアリサ達がリィン達と同じように話をしていた。もちろん内容は実習についてである。
「ハーシェル会長も一緒にいらっしゃるとの事ですが……」
「さっぱり話が見えないね」
 アリサの部屋に集まった5人は椅子やベッドに座ったりクッションを抱えて今日あったことを振り返る。
「あぁ。会長もまだ詳しくは言えないとおっしゃっていたのだろう?きっと知ってはいるが……」
「ボク達にはまだ言えないってコトだね。あぁ~明日が楽しみだな~」
 ミリアムのは通園に「らしいね」とフィーは言うと「ん?」と気配を探るそぶりを見せた。
「どうしたの?」
「サラ。まだ帰ってきてないね」
 そう言うとフィーはふわぁ~っと伸びをする。帰ってきた気配がしたとしても、下でお酒をあおっているかまたは部屋で寝ているか、だろう。そんなサラが『本気』を出せば、自分もだがリィンやガイウスだってサラの気配には気付けないだろう。
「(ま、みんな外出してることはわかってるし、サラも普通に帰ってくるかな)」
「そう言えば、皆の準備はもう終わったのか?」
「えぇ。大体はね。後は明日の班分けを待ってからってところかなぁ」
「私も大体は終わりました。一体どの様な班わけになるのでしょう……」
「ま、そこだけは明日にならなきゃわかんないね」
 そう言ってアリサ達は顔を合わせる。
「女子と男子で別れたりして」
「いや、それはないでしょう……。……なると嬉しいけど」
    そんな会話が上の階でされていることまでは気付かないリィンたちは、それぞれのARCUSに何のクオーツを填めるかで話合いをしていたのだった。


 翌日リィン達はいつも通りに学院へと向かいⅦ組の教室で昼までは通常通りの授業を受けた。そして―――
「はい、それじゃあ皆グラウンドへ移動してちょうだい。そこでこれからの実習についての説明をするわ」
 そう言われてグラウンドへ行ったリィンt達を待っていたのは、昨日商会されたトワだけでなく、アンゼリカやジョルジュをはじめとした2年生。そしてパトリックやフェリスなどの貴族クラスの1年生と、アランなどの平民クラスの1年生だった。
「きょ、教官……?彼等は……」
 サラは戸惑うリィンたちにひとつウィンクをすると、グラウンドを見回した。
「集まったわね。さぁ、実習の説明をするわよ!まずはこの資料を受け取ってちょうだい」

「えーっと、『以下の班で実習を行動するように。
  A班:リィン、アリサ、エリオット、ラウラ、ユーシス、クロウ
  B班:エマ、マキアス、フィー、ガイウス、ミリアム、トワ 』
 え……。し、C班……?」
「それだけでなく、D班にE班まで……?」
「それにこの班分けって……」
「他の班には2年生がいる」

「そう、今回の実習は彼等と点を競ってもらうわ。もちろんそれぞれ班わけをしてね。クロウがいるのとあんた達は慣れてるっていうのあって、ハンデとしていいでしょ?それでもう一方にもトワを付けた訳だし。その一方の君達は……」
 そう言ってサラ教官はパトリック達を見る。
「……実習に慣れていないっていう点を補うために2年生が着いて居るわ。誰もがクセの強い先輩だから気を付けるようにね?それは先輩であるあんた達にも言える事だけど。……さて、班わけは発表したことだし後はあんた達で頑張んなさい」
  そう言ってウィンクを飛ばすサラ教官。
「ちょ、ちょっと待ってください!まだ実習場所の発表が……⁉︎」
「実習場所なら、ちゃんとその資料を読むこと。まぁいいわ。私から直接は言わない。そこに書いてある所へ行き、実習場所やそこでの行動について書いてある書類をよく読み込んで班のメンバーの名前と実習場所を記入し今晩……日が沈むまでに私の所へ持ってくること!……まずはそこからよ!」
  サラ教官の言葉にリィン達が配られた紙を見ると、何やら暗号が記されていた。
「こ、これに書いてあるところに行けと……?馬鹿げているな」
   C班のパトリックがサラ教官を見る。サラはつまらなさそうに見返して他の学院生を見回す。
「あら?なら降りる?アタシは別にそれでもいいけれど。他の子たちも文句があるなら降りても構わないのよ?……学院からは何も言わないわ。勿論あたしもね。ただ、この実習は一度きり。このチャンスを逃せばⅦ組と実習で競うことはもう無いと思いなさい」
  サラ教官の言葉にぐっと言いたい事を飲み込む様子の一年生達。二年生達はというと面白そうに事の成り行きを見守っているだけだ。

 

 

 * * * * *

 

 

「おい女!さっさと起きろ!」
 リィン達よりも進行方向前方にいるテロリストが、客席に向かって怒鳴っている。手に握られているのはちろん銃だ。
「っ、リィン」
 フィーとミリアムがどうするの?と視線をこちらへ向けてくる。彼女たちならば、あのテロリスト一人ならなんとかなるだろう。だが。
「おい、さっさと起こして拘束しろ」
「全くたまげたガキだな。おい!」
 このままではまずい。リィンはまず行動を起こすためにフィーとミリアムに、そして援護に回ってもらうのを頼むためクロウとエリオット、エマに目配せをする。ユーシス、マキアス、ラウラ、アリサ、ガイウスはいつでも動けるとリィンに頷く。
「(よし、行くぞ。フィー、ミリアム)」
「(了解)」
「(まっかせてー)」
 だが、動こうとしていた俺達の動きはテロリストたちには読まれていた。
「おい、ガキどもそこで何をコソコソしてやがる」
「……っ」
「ひっ」
 乗り込んできた3人のうちの一人に気付かれたのだ。エリオットとアリサに銃口を向けつつ一人が寄って来る。それに気付いた仲間の2人にうちの一人もこちらへと足を向ける。
「(不味い)」
 そう思って何か動こうとリィンが身体を動かした瞬間。
「ふぐぉぉぉっ」
 という声と共に、前方でテロリストの身体が跳ね上がるのが見えた。
 テロリスト達の意識が、突如真上に跳ね上がった仲間と、その仲間を上へと蹴り上げている脚に目が行っているその隙にその辺りからさっと一人の女性が姿を見せた。身体はこちらに向けられ、口の形が「伏せて」と造られたのがわかるのと同時に発砲音が響く。ドサッという音が二回響くと、リィン達の前にいたテロリスト達が伸びていた。
「い、一体……」
「そいつらを抑えて拘束して!あとまだ一人いるわ……」
 その女性がリィン達に素早く言って振り返ると、ちょうど残りのテロリストも床に叩き付けられたところだった。もう一人の女性の蹴りの強襲によって。
「そのもう一人の方も今、終わったわ。こいつあたしの睡眠の邪魔しやがって……」
「こんな非常事態に暢気に寝ているアナタが異常なのよ。ほら、彼らだって驚いているじゃない」
「なっ、う、うるさいわね。彼等が驚いてんのはアンタがいきなり発砲するからでしょ!?」
 いきなり漫才みたいなのを始めた女性二人にリィンたちはどう声をかけて良いのか迷った。テロリストを撃退したのを見れば、この状況ではリィン達の味方とみて間違いはないだろう。
 問題は、その実力だ。テロリストを捕まえた二人の実力はおそらくリィン達よりも上。なぜそんな人達がこの列車に……?リィンだけでなく、皆が同じ疑問を浮かべる中。
「なんの騒ぎかと思って来たけど、どうやら懐かしい顔が解決した様ね?」
「サラ教官!それに会長も」
 後方の車両から戻ってきたサラ教官とトワ会長がいた。二人とも武器を持っているということはどうやらどのタイミングで飛び込もうかとしていたらしい。サラ教官はやれやれとため息をつきつつリィン達を見回し、足元に束ねられているテロリストを睨む。
「さてと。後方に仕掛けられていた細工とかはもう弄れないようにしてきたから、後はアンタたちをどうするかね」
 テロリストたちは不敵に笑い。サラ教官を見上げる。
「俺達、だけだと、思っている訳では、ないだろう?」
「まだ前方車両には仲間もいるし、人質もたくさんいるからな……」
「俺達が捕まったのだってどうせすぐに伝わる。そうしたらどうなるかな?」
「……こいつら、自分達が捕まってるってわかってるのに大した自信だね」
「だがこいつらの言っていることは事実だ。前方車両にだってこいつ等の仲間もいるし他の乗客たちがいるのも事実だ」
 リィン達はサラ教官を見る。サラ教官はやれやれと首を振ると、後ろのドアを振り返る。
「彼らはその気みたいですけど、どうします?ナイトハルト教官?」
 サラ教官の呼びかけに応えるかのようにしてナイトハルト教官やパトリック、フェリス、アンゼリカ先輩たちも後方車両からやって来る。
「仕方ない。どのみちこの列車が動かない限りはオルディスへも向かえないのだからな。A班、それにB班。私とバレスタイン教官について前方車両へ……」
「待ってください教官」
「私たちも行きます」
 パトリックやフェリスが言うのに合わせて他のC班、D班、E班のメンバーも頷く。それを見たナイトハルト教官とサラ教官はやれやれと顔を見合わせると「そうなると思った」という顔でリィン達に「良いわね?」と尋ねる。リィンたちも断る理由は無い。
「A班にC班、アタシとナイトハルト教官についてきなさい。前車両へ向かいテロリスト共を制圧するわよ。B班、D班、それにE班はここで防衛線を張りなさい。そして拘束したテロリストの監視と逃げてきた人達の保護と手当をすること」
「残党も倒してはいくが、おそらく、逃れる者も出るだろう。そういった者たちがこちらへ来る可能性も十分ある。気を付けろ」
「はいっ!」
 教官たちの指示に俺達はすぐに返事をし、動き出そうとした。

「あの~。決まったところすみませーん……」
「私たちもお手伝いいたします」
 話し合いを終え、すぐにでも動こうとした俺達を止めたのはさっきの女性たちだった。ナイトハルト教官は巻き込む気はないようで彼女たちを後方車両に他の乗客たちと一緒に居させたいようだが、サラ教官は違った。
「貴女がたまで巻き込む訳には」
「アンタ達……。……ナイトハルト教官、二人にも一緒に行ってもらいましょう。彼等の実力は私が保証します」
「えっ、教官!?」
「知り合いなのサラ?」
 サラ教官は「まぁ、知り合いよ」とだけいうと、「それじゃあ行くわよ」というと前方車両へと駆けだす。
「まぁいい。後で詳しくは聞くことになるが、よろしく頼む」
「は~い」
「了解です」
 そう言うと二人の女性もサラ教官を追って走り出す。
「お前達も油断は絶対にするな。行くぞ!」

 こうして、対列車テロの作戦が始まった。
 だが、実際扉を開けてから活躍しっぱなしなのは……。

「ちわ~っす!……よっ……と、ちょっと邪魔だっての!」
 先程まで寝ていたとは思えない身体のさばき方で次々とテロリストを殴り飛ばしの蹴り飛ばして気絶させていく明るい赤茶色の髪をした女性。
「ちょっとあんまり前に出ないでよ!フォローする身にもなって」
 と、相方である女性をフォローしつつ小銃でトドメを次々と刺していく長い黒髪を高い位置で括っている女性。
「全く、前に出過ぎるなって言ったでしょ!?本当に次から次へとうじゃうじゃと……!」
 そう言ってガンブレードを振り回す≪紫電≫ことサラ教官。
「こいつ等が何を考えているのは後で吐かせればいいが、バレスタイン教官、こちらに残りを押しつけるのはやめていただきたい」
 そうサラ教官に文句を言いつつも、次々とテロリストを薙ぎ払っていくナイトハルト教官。

 四人の猛者たちを前にテロリストたちが屈しない訳がなかった。

「オレ達、来た意味無くね……?」
「まさにそんな感じだな」
 クロウとパトリックの言葉に頷きながらも、四人の凄まじい気迫と勢いに呆気に取られている俺達の前でとうとう先頭車両へのドアが開いた。

「ここが先頭車両?」
「みたいだな」
 先頭車両は薄暗く、車掌のいる運転席はこの薄暗い先だ。
「来たか」
 やけに落ち着いた男の声に、サラ教官とナイトハルト教官が俺達の前に止まれと手を出す。
「貴様が、この列車を襲撃したテロリストのリーダーか?」
 ナイトハルト教官が問うとその男は「そうなるなぁ」と返してくる。この男、自分の状況がわかっているのだろうか?それにこの感じ、誰かに似ている……?
「俺は≪帝国解放戦線≫の一員さ。流石に鉄血宰相殿も、ご自慢の鉄道全てを守る訳にはいかないだろう? こうやって穴を突ついてやったのさ。そして貴族共にもその移動手段を断たれたことで、自分達が何をしていたのか、我等に対しての行いを改めさせる必要もあからな」
「……こいつ」
「言ってること目茶苦茶だね」
 ≪帝国解放戦線≫が宰相を狙っているのはリィン達も良く知っている。帝都地下での彼らの宣言やガレリア要塞での行動、宣戦布告。それらから察するに彼等が『貴族派』とつるんでいるのは明白だった。だが、この男は何て言った?
「(彼等は貴族にも制裁をというのか?)」
 一体なぜ?何のために?
 それを聞く前にリィン達の周りをテロリストの生き残りや軍用犬たちが囲み始める。
「こいつ等は……」
「バリアハートで見た類の犬だな」
「なら、躾け甲斐がありそうね」
 囲まれつつも武器を構え、相手に背を見せず俺達は円陣を崩さないようにする。
 一触即発。まさにそんな中で。テロリストのリーダーは笑みを浮かべつつこちらを見る。邪魔立てした者たちが囲まれそして死んでいくのが目に見えているように。
 一方のリィン達は、そんなことはさせないと彼等を完全に制圧することが今の目的を達成させるために。

 動いたのは、あの二人の女性たちだった。

「サヤ。頼むわ」
「はいはい」
 そう言うなり3発の連続の銃声と共に車両の上に飾られていた照明が落ちる。近くできゃぁっという悲鳴が上がった。おそらくまだ人質が数人いるのだろう。まさか二人はそれを気付いていて……。
「ユフィ!」
「っ!そこ、ね!」
 影が動き、悲鳴が上がった辺りに気配が動く。その気配を追って魔物達が動こうとする。
「させるか!」
「させない!」
 動く彼女の援護と、彼女が何をしようとしているのかわかったリィンとラウラ、アリサは援護に回る。テロリストたちに囲まれていて自分たちも危ないのは事実だが、それ以上に民間人を巻き込んでいるこの状況では戦えない彼等が一番の危険に晒されてしまう。そして彼等を人質にされればこちらも動けなくなってしまう。だから彼女たちは真っ先に彼等を助け出すことに決め動いたのだろう。まるで、遊撃士の様に。
「みんな!頑張って!」
「気を抜くな!一斉にかかれ!」
 エリオットのエコーズビートとユーシスのノーブルオーダーの援護を受ける。
「皆さんに加護を!」
「今だ!一気にゆくぞ!」
    他のテロリストに挑む皆へのロジーヌの回復魔法とパトリックの援護も受けつつ、リィンとラウラは捉えられていた人達に駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「こちらへ!」
だが、テロリスト達もそう簡単に行かせてくれる訳はない。

「舐めるなガキ共がっ!」

リーダーらしき男が先ほどまでとは変わった口調でリィン達に突撃してくる。手にするのはスタンハルバード。リィンもラウラも、黒髪の女性もそれぞれ人質を支えているため、思うようには動けない。
「……っ!」
「リィン!!」
「ちっ、間に合うかっ」
アリサとクロウがそれぞれ飛び道具をリーダーへ向けるがこのままでは間に合わない。サラ教官もナイトハルト教官もリィンたちに他の残党達を向かわせないようにと剣を振るっているため間に合う距離ではない。
「(せめて、この人だけでも……)」
  リィンは身体を人質になっていた男性を庇う様に身を乗り出す。
「リィン!!」
アリサの悲鳴が聞こえる。
目の前に迫る刃。
だが、いつになっても衝撃は来ない。
ガキィンという鈍い音がし、薄っすらと閉じていた目を開けるとリィンとテロリストのリーダーの間に赤茶髪の女性が滑り込み、その攻撃を受け止めていた。
ふた振りの剣を交差させて。
「……っ、結構重たいもん振り回してくれんじゃない。しかもこんな狭いところで……さぁっ!!」
 女性は勢いでリーダーを押し返し、身を屈めて特攻する。
「バカめ!そんなことしても……っ」
まだ攻撃をしようとする男の肩から突如、血が吹き出す。その血に男は呻いて床にしゃがみ込んだ。リィンたちも突然の出来事にあたりを見回すとサラ教官が男に銃口を向けていた。
「その子ばかりに集中するからよ。こうなることは想像出来なかった?……ユフィ!」
「……終わりよ!」

サラ教官にユフィと呼ばれた女性はリーダーに突撃し、相手を奥の壁へと吹き飛ばし激突させる。

床にへなへなと崩れた相手は、完全に伸びていた。
「……終わりだな。他のはまだやるつもりか?」
ナイトハルト教官の言葉にリーダーを失ったテロリスト達は次々と投降していき、彼等を全員捕縛すること、車掌の無事を確認したことでこの事件は解決した。


   列車の付いたオルディスでは連絡を受けた領邦軍が待機していた。彼等にテロリスト達を引き渡した俺達だが、彼等からは何の説明もなくただ「ご苦労だった」と言われただけ。
  サラ教官やナイトハルト教官達は事の顛末を説明させて欲しいと言ったが受け入れてもらえない。そんな教官達にこの一件の後は任せることにして、俺達は先に実習地であるブローレットへ向かうことになった。

 のだが。

「な、なんで、車とか何も無いの!?」
「もう先にC班達が先に乗って行っちゃったみたいだね……」
「む、やられたか」
俺達A班と、B班は渋々徒歩でブローレットへと向かうことになったのだった。

   * * *

「『紫紺の古都ブローレット』。昔はそう呼ばれていたようだが、今では忘れられた街と言った方が正しいようだな」
「えぇ。それもかなり前のことの様ですし……。以前は七曜石の採掘場もあって栄えていたそうですが、七曜石の採取量のが減ったことを受けて閉山された様ですね。それ以降は水運を基盤にしていたようですがそれも今ではといった様ですね」
 ブローレットへ向かう道中。俺達はこれから向かう場所の情報の交換をB班と共にしていた。先程のテロリストの一件もあるが少し気になることがあるからだ。C班からE班はすでにブローレットへ車やら馬車で向かってしまっていた後で、俺達A班とB班は仕方なく徒歩で向かっていた。そんな中、委員長とマキアスの提案により今回の実習について互いの意見を交わすことになったのだ。もちろん今回の実習地についての情報交換も含めてだ。
「はぁ。一台ぐらい残しておいてくれても良いのに……」
「荷物多い……マキアス持って……ってそれはダメか」
「何で僕の方を見る前にそうやって結論付けるんだ!?」
   エリオット、フィー、マキアスは重たいカバンを抱えたり背負ったりしながらリィンたちの前を歩く。冗談を言える分エリオット、フィーとマキアスはまだ大丈夫だろう。それよりも問題は……。
「エマ、だ、大丈夫?」
「…………」
「ユーシスも大丈夫か?」
「…………」
先ずの問題は委員長とユーシスだ。二人を心配するアリサとガイウスは随分余裕がありそうだし、ラウラとクロウ、トワ会長は見るからに問題無さそうだ。ミリアムはアガートラムに任せたりで余裕らしい。そこで俺たちはミリアムに頼み込み委員長とユーシスの荷物を持ってもらえないかと頼んでみた。何時ものミリアムなら「やだー」と言うかもしれないと思ったのだが、彼女からの答えは早かった。
「へ?……いいよ?」
彼女の意外な反応に対して驚きつつ、俺達はミリアムに二人の荷物を任せることにした。

 

 

 

Twitter @

無断転載はご遠慮ください。

© 2023 by Name of Site. Proudly created with Wix.com

  • Facebook App Icon
  • Twitter App Icon
  • Google+ Social Icon
bottom of page