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ストーカーの捜査依頼

 

 

帝都ヘイムダルで夏至祭に起きた、≪帝国解放戦線≫による襲撃事件から約2週間が経ち、
ト―ルズ士官学院1年特科クラスⅦ組へ編入してきたクロウとミリアムがクラスに馴染んだ頃。


8月11日(水)
―――第3学生寮

「ふぅ。今日はどうやら、俺が一番早かったか…」
そう言ってリィン・シュバルツァーは彼のポストの中を覗き込んだ。自由行動日にトワ生徒会長から依頼が入っていたりするリィンのポストは、いつも郵便物は少ない方だ。故郷の両親や帝都ヘイムダルの聖アストレイア女学院に通う妹、エリゼ・シュバルツァーからの手紙ぐらいなものだった。だが…。
「うん?今日も手紙が…」
先日、帝都で行われた夏至祭で妹のエリゼと会い、その後両親やエリゼ本人とも手紙のやり取りはしている。
「2日ぐらい前にエリゼからは来たし、父さんからも来たよな…。…じゃあ、誰からだ?」
そう思いながら階段へ向かう。そこへー
「お帰りなさいませ。リィン様。」
と、挨拶をする声が聞こえた。
「あ、ただいま戻りました。シャロンさん。」
リィンを迎えたのは、この第3学生寮の寮監であり、クラスメイトであるアリサ・ラインフォルトの実家である、ライフォルトグループ社長の秘書も務めるスーパーメイド、シャロン・クルーガーだ。
「今日はリィン様は、お早い御戻りですね。皆様は部活動でしょうか?」
「あぁ。そうかな。夕飯まで部屋にいますので。何か…」
「何か有れば、お願いいたしますね。リィン様。」
「・・・・・はい。では。(何かあるんだろうな…。)」
言おうとしたことを先にシャロンに言われ、とりあえず、荷物を置きに部屋に戻ることにしたリィンだった。

 

――第3学生寮2階 リィンの部屋
「さて、この手紙は一体誰からなんだ?」
白い封筒。宛先は『ト―ルズ士官学院特科クラスⅦ組リィン・シュバルツァー様』…どこからどう見ても自分宛だった。
改めて見ると、裏の差出人には、リィンの妹である、エリゼ・シュバルツァーと書いてあった。
「おかしいな、エリゼからはおとといぐらいに手紙が来たんだが…」
何かあったのか?と思い、手紙を開けてみる。
そして、中の文章にざっと目を通した…
「え・・・・・。」

 

―――――19:00 第3学生寮

「こら、ミリアム!つまみ食いしないの!」
「エヘヘ。だってお腹空いちゃったんだもん!」
「まぁまぁ、アリサさん。ミリアムちゃんも…」
つまみ食いをするミリアムと注意するアリサ。そしてそんな2人をたしなめるエマ。
その向かいでは…、
「ぐー。」
「フィー。もう夕食だというのに、寝るな。」
「ん。だって眠いんだもん。ふわぁー。」
と、うたた寝をしようとするフィーと、夕飯だから起きろと言うラウラの最強女子2人。

「うーん。」
「どうかしたのか?エリオット?」
「リィン、遅いなって…」
「あぁ。そうだな。どうかしたのだろうか?さっきは何も言ってなかったが…」
「アー、アレだ、腹でも下したんじゃねぇか?」
「先輩、変なこと言わないでください。しかもこれから食事という時に…」
「全く。同感だな。」
と、エリオット、ガイウス、クロウ、マキアス、ユーシスの男性陣。

「ねぇ、シャロン。リィンが帰って来た時は、何もなかったんでしょう?」
アリサがシャロンに声をかける。
シャロンは「ハイ…。」と言う。
そして、思い出したように、
「あ、リィン様のポストに手紙が入っていたようで、どなたからのかは私は存じませんが、リィン様はとても不思議そうにしていらっしゃいましたね…。」
と言った。
「手紙?」
「ハイ。」
「・・・・・・・・本当に?」
「ハイ。」
「・・・・・・・・・」
そのまま黙るアリサとシャロン。

「手紙かぁ。うーん、妹さんかな?」
「そうですね。エリゼさんからなのでしょうか?」
「それとも、故郷のご両親からか?」
「それにしても。読むの、長くない?もし、返事書いてたとしても、リィンが私たちが移動したのに気付かないってのは、無いと思う。」
と、エリオット、エマ、マキアス、フィー。

皆がどうしたのだろうか、どうするかと考えている、そんな中、ユーシスが席を立ちあがり、
「仕方ない、様子を見てくる。」
と言って、階段へ向かった。

 


―――リィンの部屋の前

「おい、リィンいい加減に、っ…!?」
ユーシスは声をかけて、リィンの部屋をノックしようとして固まった。
「(なんだ、この部屋から出てくる殺気は…?)」
ユーシスが固まっている間に、いつの間にか後について来ていたミリアムが部屋に突入していく。
「リィン!!もう何やってんのさーっ!!お腹空いたよ―!!ってアレ?」
ようやく、ミリアムもリィンの様子に気づいたらしい…。
「う、うわぁぁぁ…。ど、どうしちゃったのさ、リィン?」


部屋の中には太刀を構え、あからさまに殺気を放っているリィンが立っていた。


「おい、リィン?」
「…!?ご、ごめん…。」
ユーシスが声をもう一度かけると、我に戻ったらしいリィンが謝ってきた。

「いや、謝るなら俺にではなく、下で皆に言え。」
「え、あ!?ご、ごめん!時間、忘れてた…」
「ど、どうしちゃったのリィン?だいじょうぶー?」
「あぁ、大丈夫だ。それより、早く下に行こう。これ以上皆を待たせると後が怖い…。」
「フン。わかっているならそれでいい。行くぞ。」

階段を慌てて降りていくリィンを、ミリアムが「待って―!ご飯―!」と言いながら後について降りて行く。
ユーシスはリィンの部屋を見回す。机の上に置いてある手紙。
差出人はリィンの妹。だが…。
「…何…?」

「ユーシスー!!ご飯―!!」
「…わかっている。今行く。俺の分を食べるなよ!」
ユーシスはこの件については、後で本人に直接問いただそうと思い、リィンの部屋を後にした。

 

「全く!部屋で一体何してたのよ!!」
「すまなかったって、アリサ…。」
「もういいから、早く食べようよ。」
「そうだな。せっかくの飯が冷めてしまう…。」
ユーシスが食堂に戻ったときには、リィンに当たるアリサ、その2人を止めているのかどうかという、フィーとガイウスのやりとりが行われていた。
「あ、ユーシス!これもらってもいいー?」
と、答えを聞く前からもうすでに笑顔でユーシスの皿にフォークを伸ばすミリアム。
「だ め だ!・・・おい、エマ。」
「ふふふ。はいはい。ミリアムちゃん、きっとシャロンさんがおかわりくださるでしょうから、ね。」
「ぶーぶー。ユーシスのケチー。」
「誰がケチだ全く。」

「それにしても、リィンが食事に遅れてくるとは珍しいな。一体何があったのだ?」
「うんうん。どうかしたの?」
「シャロンさんは手紙を持っていたと言っていたが…。」
と、今度はリィンを質問攻めにするラウラ、エリオット、マキアス。
「え、あぁ。まぁ、手紙が来ててさ…。」
「ほぉ。」
「お、もしかして、ラブレターか?」
「「「「「「・・・!?」」」」」」
クロウの言葉に反応する面々。
「いや、ラブレターじゃなくて…、その…。」
「ラブレターじゃなきゃなんなのかしら?」
アリサが質問を畳かける。
「あの、えーっと、アリサはどうしてそんな聞いてくるんだよ…」
「どうしてって、そりゃこっちは散々待たされたから、貴方が何が気になってその結果私たちがこんなに待たされることになったのか、その原因が知りたいだけよ!?」
リィンの反論に対してアリサがさらに怒る。リィンがどう言おうか悩んでいる様子だったのを見て、ユーシスが口を開きかけたその時。

「はぁーーーー!ただいまーーーーーっ!メイドさぁぁーん!お水ちょうだぁーいっ!」

と、玄関から酔っ払いの声が聞こえたのだった。

「・・・・・・・・・・」
聞こえた声に一斉に黙るⅦ組メンバー達。
玄関から聞こえた酔っ払いの声の主は彼ら特科クラスⅦ組の担任である、サラ・バレスタインのものだった。

「…まぁ、皆さん。とりあえず、早く召し上がってくださいね」と言うと、流石スーパーメイドという尊敬のまなざしを受けながらシャロンは、素早くコップに水を汲むと、玄関へ向かって行ったのだった。

「みなさん、いただきましょうか。」
「そだね、委員長。早く食べちゃお。」

リィンは、この時、正直に『おかげで助かりました』と、サラに感謝したのだった。

 

―――――22:00 第3学生寮  リィンの部屋

「ふぅ。この手紙。どうするべきか…。」
と、リィンは机の上にある手紙と睨みあう。
そこへ、コンコンと、ドアをノックする音が聞こえた。
「ユーシスだ。今いいか?」
「ユーシス?あぁ、開いてるぞ。」
「失礼する。」

ユーシスが部屋に入ってくる。
「どうしたんだ?こんな時間に?」
「…その手紙、どうするつもりだ?」
「えっ…。」

ユーシスは先ほど、リィンを呼びに来て彼の部屋に入り、彼の異様な状態を目の当たりにした。
おそらくその原因は机の上にある手紙。
「先ほど、お前の部屋に入った時に目に入ったからな。それにあんな状態を見たら何かあったとしか思えんからな。」
「…ハハハ。そうか…。」
リィンは、わかったという感じで部屋の奥へとユーシスを招く。
「で、なぜ皇女殿下がお前の妹の名前を使ってお前に手紙を出して来たんだ?」
「・・・そこまで見てたのか…。」
「見たんじゃない。『たまたま』、『見えた』だけだ。」
「…はぁ。わかった。説明するよ。」

リィンは観念した様子で話しだした。
リィンに送られてきた手紙。差出人はリィンの妹であるエリゼになっているが、実は本当の差出人はエリゼではなく、エリゼの親友であり、エレボニア帝国皇女のアルフィン殿下からだったのだ。
アルフィン皇女からの手紙の内容は、先日の夏至祭で起きた事件についてのお礼。
そして、最近、彼女たちの周りで起きている事件についてだった。

「殿下達の周りで事件だと…?」
「あぁ。アルフィン殿下がという訳ではないんだが…」
説明するリィンの声に若干だが怒気がこもる。ユーシスはすぐに理解した。
「……なるほど、今回は殿下ではなく、お前の妹か。」
「あぁ。」

「・・・エリゼがストーカーに遭っているそうだ…。」

 

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